
自治会旅行(木曽路)
【TRAVEL/MAIN No.444】著者 I.P 1993/10/22 10:59:14 2162 byte
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『題名』自治会旅行・木曾路その1>I.P
総勢31名、内、男が僅かに5名。
最近、団体バス旅行といえば、段々と女性陣の比率が高くなっているようだ。これは
いままで家事、育児にあけくれていた女性方が、私だって楽しみますわよ。と自己主
張の傾向にある為かも知れない。なにしろ、バス旅行というものは、集合時間にさえ
間に合えば、あとはシステムに便乗して、身の回りの世話は、添乗員やバスガイドが
全面的に面倒を見てくれる。さらには、役員さんというのがいて、何かと世話もして
くれる。お手軽なのだ。こういうところにも、団体バス旅行の人気の秘密があるのか
も知れない。
さて、今回の旅は木曾路。ちょっと遠方になるので、バスにバスはついていないがト
イレが完備されている。運転手さんも2名乗務体制だ。ガイドさんは1名で東急観光
の女性添乗員がついていた。
10月20日、午前8時にバスは出発した。
福崎インターチェンジから中国・名神高速を経て彦根で昼食。システムに乗った昼食
が用意されていた。ドライブインには昼食予定の団体名が楯看板に書かれ、ずらりと
入り口に並べられている。次々と観光バスが到着する。1階は、おみやげ品の売場で
階上が昼食会場となっている。昼食の準備が整うまでの間に品物を物色してもらう仕
組になっている。混雑している売店にアナウンスが流れる。
「何何ご一行様、昼食の用意ができましたので階上へおあがり下さい。」
ずらーとバス数十台分の昼食会場になっていた。さばき方も手慣れたものだ。
整然と並べられたテーブルには、ちゃんと団体名が表示されトレイには一人前づつの
昼食が用意されていた。そして、サービス券というものが、それぞれの席に配られて
いる。この券、ご持参の方は、300円でクジ引ができます。ハズレなしで最高1万
円くらいの豪華景品が当たります。と書いてある。この300円という価格設定が微
妙なところで、ん、じゃまぁ一丁やってみるか。となるギリギリの線だと思う。
食後、そのサービス券を握りしめて運試しをしたのは言うまでもない。
私は、模造真珠のネックレスが当たったが、寺本君(彼は昔、タウンネットのメンバ
ーだったが最近は通信から遠ざかっている)が4等を当てた。何かと思えば、ポルノ
のビデオテープだった。若い女店員さんが2種類のビデオを出してくれて、どちらに
するか訊ねてくる。多勢の女性客が回りで見守る中、選ばされていた。赤面している
様子が面白かった。
(つづく)インスピ
【TRAVEL/MAIN No.445】著者 I.P 1993/10/22 12:39:19 2108 byte
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『題名』自治会旅行・木曾路その2>I.P
昼食を終えた一行は再び名紳高速道路で小牧ジャンクションへ。中央高速道路に乗換
て中津川インターチェンジで降りる。道中、ガイドさんは喋りっぱなしだったが、私
は最後尾の席に陣取り、もっぱら小説を読んでいた。娯楽小説で大沢在昌の新宿鮫シ
リーズ第4弾、「無間人形」という本だ。いま、映画になっている「眠らない街」と
うのは、このシリーズの最初に出た「新宿鮫」が原作となっている。
バスの中で本など読めるものかと疑問に思われる方もあるだろうが、最近は道路事情
も車体も良くなっているので振動も少ない。風景に見るべきものがないと思ったら本
でも読んでいるのが、私の場合は快適な道中ということになる。
妻篭宿(つまごじゅく)というところでバスが停った。旧中山道の宿場町だ。江戸幕
府によって「宿駅」が定められ、江戸から42番目の宿場として整備されたのがこの
妻篭だそうだ。昭和43年から町並保存事業により、宿場の景観がよりがえり観光名
所となっている。その昔は、「アンノン族」という人達が、雑誌片手に盛んに訪れて
いたようだが、いまは、バスの団体旅行が中心となっている。
栗キントンが名物のようなので、私も寺本君と抹茶を戴いた。500円で茶菓子に栗
キントンがつく。栗の実で練ったお菓子で秋期の3ケ月間だけが、その年の産を賞味
できるらしい。冷凍ものは、やはり味が落ちると説明していた。すべて昔風の建物で
茶店も時代劇に出てくるような建屋だった。そういう通りが約1キロほど続いていて
団体バスから降り立った観光客が、ぞろぞろと歩いている。冷水の鯉が人目を引いて
いた。きれいな水が流れ込み、回りにコスモスの花が群生していた。
次に訪れたのは、木地師の里。木曾といえば「ひのき」だ。木工芸品で名高い。ろく
ろ細工をしている様子なども現場を見学させてくれる。例によって、みやげ物の店で
婦人方が手頃なものを購入されていた。何故、旅に出るとご婦人方は、次から次へと
買物をされるのだろうか?バスが停る度に何か買っておられる。「もう次は何も買わ
ないからね。」と言いながらバスを降りられるのだが、集合時間になると、「また、
買っちゃった。」と少し照れて言いながら、手に袋を持っておられる。バスだから荷
物が増えても平気のようだ。どうせ、帰りにはバスが停るところまで旦那さんに迎え
に来てもらう算段なのだろう。
(つづく)インスピ
【TRAVEL/MAIN No.447】著者 I.P 1993/10/22 15:20:52 2694 byte
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『題名』自治会旅行・木曾路その3>I.P
木曾漬物見学となっていたが、何のことはない。漬物専門の店にバスを停め、おみや
げものを買う時間を作ったのだ。
信州は、空気が乾燥しているから喉が渇く。絶えずお茶を飲む習慣があるのか、何処
のドライブインでも「どくだみ茶」「そば茶」等の自動給湯器が備えつけている。も
ちろん無料だ。その前には、各種の漬物試食の用意がなされている。味見してもらっ
て買ってもらおうということなのだろう。それも20種類以上にも及ぶのだから並じ
ゃない。爪楊枝で一つ一つ味見する。やはり野沢菜が一番有名だ。私は、山菜そばや
山菜うどんが好きだから、わらびやゼンマイ竹の子等が混合されているものを買う。
朝8時に出発してから8時間ほどかけて昼神温泉に到着した。ホテルは伊那華という
ところだった。バスの中で部屋割は完了しているので、宴会時間と場所を確認するだ
けでいい。温泉は24時間いつでもO.Kということだ。
部屋へ向う廊下で、アスレチックジムの案内があるのを発見した。プールもある!!
寺本君と宴会までに一泳ぎすることにした。寺本君も、「アルダ」のメンバーで時々
、ジムに行っている。第2月曜日でサンガーデンのジムが休みの時などは、彼に頼ん
で連れていってもらったりもした。
あまり時間がないので、慌てて本館フロントまで水着を段取りしに行った。フロント
のお姉さんに水着のレンタルはないかと言うと、買取ですとの返事で、競泳用のもの
が2千円であった。仕方ないので買う。ついでに、タオルを忘れたのでプールまで持
ってきてと頼む。
25Mプール、水深は1100で5コースあった。入ったのは我々2名だけ。室内プ
ールだから水温も適当なものだった。クロールを開始した。晩飯前の1キロスイミン
グは軽いものと思いこんでいた。が、ゴーグルがなかった。水中で目をあけられない
のだ。これでは泳げない。クロールを諦めた。平泳ぎと横泳ぎに切りかえ頭を水上に
出したまま泳ぐ。6往復の3百メートル泳いだところで息が切れてしまう。如何にゴ
ーグルが大切なものだったか認識した。ゴーグルさえあれば、クロールで1キロは軽
いものだったに違いない。
プールを出たが、タオルが、まだ届いていない。仕方なく、部屋にあるタオルを取り
に二人揃って水着だけの格好で廊下を歩く。ここでも、女性客が圧倒的に多い。珍妙
なスタイルで歩く我々は、体のよい見世物となったようだ。目を丸くして驚いてから
しばらく行くと、ギャハッハッハッという笑い声がうしろから聞こえてくる。まった
くあのフロントのお姉さんは。。。と憤慨してもどうしょうもない。
部屋に戻ったが鍵がかかっていた。マスターキーで開けてもらおうとエレベーターの
前まで行くと、我々の団体の中では一番若い女の子2人づれとバッタリ出会う。箸が
コロンでも笑うような年頃の子だ。いい歳したおっさんが二人して、裸体に窮屈そう
な水着一丁でうろうろする図は、どう見ても可笑しいものに違いない。クスクスとつ
つましく笑っていたが、きっと、我々の姿が見えなくなってから、ゲラゲラ笑ったに
違いない。
(つづく)インスピ
【TRAVEL/MAIN No.448】著者 I.P 1993/10/22 16:33:47 2150 byte
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『題名』自治会旅行・木曾路その4>I.P
我々の部屋は別館だった。宴会は本館の2階だ。途中に大浴場がある。普通は男風呂
と女風呂が1日交替になっているところが多いが、昨今は女客のほうが多いのか別館
の大浴場はどちらも女風呂になっていて本館の古い風呂だけが男風呂となっていた。
女性陣は、部屋が意外と立派だったので喜んで興奮している。我々が着がえているとこ
ろに飛びこんできて、この部屋より私達の部屋のほうが豪華よ、部屋に露天風呂までつ
いているから見においでとか言っていた。結構なことだ。こういう旅行では、部屋と料
理と仲居さんの応対の上手下手で、旅行そのもの自体の評価が決まってしまうのだ。
世話させられる方としては、なによりも女性陣に喜んでもらわなければならない。
風呂へ行く途中の廊下には、有名人の色紙が飾ってある。中京に近い関係か中日ドラゴ
ンズの選手の色紙もあった。「今年は4度目の三冠王を取るぞ」落合博満というのもあ
った。何年前のものか?
少ないといっても、1つだけの男風呂におしこめられてみると結構混雑する。それでも
プールと裸の廊下歩きで冷えきった体だけは温めた。宴会でのカラオケ景品を用意しな
ければならないので寺本君とともに売店へ行く。適当に品物を選び宴会場へ運んでもら
うように手配した。
自治会長さんの挨拶があり、型通りの乾杯で宴会は始まった。なにしろ男は、たったの
5名だけで、女性ばかりの席である。宴席に芸者さんなんか呼べないし、カラオケぐら
いしかすることはない。料理は、鯉の甘露煮はじめ、山海の珍味が盛沢山で、どうやら
好評だったようだ。
女の人が大半だったので、カラオケの盛り上がりを心配していたが、なんのなんの最近
では女性陣の方がカラオケボックスやスナックで練習を積んでいる。次から次へとリク
エストが出て景品が不足しそうにまでなった。お開きの時間がきて、部屋に戻る。
今回の旅行では、寺本君と碁を打つというのが私の最大の楽しみであった。彼は正式に
初段の免状を取得していて、これまでにも商店街の旅行でも散々、私と勝負している。
私が入院していた時も、見舞いに来たのか碁を打ちに来たのかわからない程、私の相手
をさせられている。手合いは、彼のほうが少し上だと思う。彼も、私と一緒の旅行とい
うことは、別に約束はしていなくても、当然、対局するものと思っていたようだ。
碁盤の用意をフロントに頼んだ時からが楽しい時間の始まりだった。
(つづく)インスピ
【TRAVEL/MAIN No.449】著者 I.P 1993/10/25 09:03:27 2271 byte
《コメント先 No.448 このメッセージに対するコメントが 1件あります》
『題名』自治会旅行・木曾路その5>I.P
部屋は、フトンが5人分、敷かれていた。ドアに近いところに3組、奥に2組が枕が
中央に向けて用意されている。奥の2組の間に空スペースがある。そこへ運ばれてき
た碁盤をセットする。
宴席のビールが効いていたが、碁盤を見るとシャキっとする。ひさしぶりの対局だ。
そういえば、このところGOTERMで通信しながらPC―VANの囲碁SIGでも
NIFのFIGOでもオンラインリアルタイムの対局はしていない。
いよいよ対局の開始だ。相手が初段なので当然、私が黒石を握る。第一着手は右上星
にパチリと石音も高く打ちおろした。この最初の音の高さで、今夜は気合いが入って
いるぞと意思表示したようなものだ。囲碁は別名を手談ともいう。黙って打っていて
も相互に相手の思いは伝わるものだ。
やはり、序盤の石組は段持ちだけあって、位が高い。少々、押れ気味だった。こうい
う場合は私の得意技である接近戦法で対抗するしかない。複雑なねじり合いの世界に
突入する。ダメの数を一つでも間違えると潰れになる。こういうのは割と好きだ。
何が何だか訳のわからない戦いとなって、相手の大石を殺してしまった。私が第1局
をものにした。第2局は、私が白石を持たされた。相手は段の免状持ちなので、それ
はないよと抗議したが1番手直りだと受付ない。仕方なく白で相手した。これは負け
るはずと手順を進めていたら、またしても相手の大石を殺すチャンスが廻ってきた。
知らん顔して、そのデカイ大石だけを狙っていた。気がつくと、その大石には一つも
目がなくなっていた。気がついた時は遅い。ここで、軽口を叩く。「どうすんの?」
頭に血が昇った寺本君は、またしても投了した。さらに、第3局を開始した。1番手
直りなら、2子を置かなければならないはずだが、何も言わず黒の第1手を放つ。こ
うなれば相手に心の余裕はない。この局も私のものだった。。。
結局、3番とも私の勝ちで、この旅行は私にとって最高のものとなった。寺本君は悔
しい思いをしたことだろう。風呂へと足を運んでいった。その間、満足した私は横に
なりテレビを見ていた。美智子皇后様の件や、ロシアの核廃棄物投棄関係のニュース
が流れていた。
昼神温泉は静かなところで、外に出ても何もない。まさに「木曾路はすべて山の中で
ある」(島崎藤村)であった。
同部屋の方々は年輩者ばかりで就寝時間も早い。まだ12時前なのに、ほとんど寝て
しまわれた。風呂あがりの寺本君と冷蔵庫からジュースをとりだして飲む。トマトジ
ュースだった。
明日は、いよいよ駒ケ岳だ。
(つづく)インスピ
【TRAVEL/MAIN No.450】著者 I.P 1993/10/25 09:05:53 2872 byte
《コメント先 No.449》
『題名』自治会旅行・木曾路その6(完)>I.P
風呂は24時間いつでもOKだが、プールは早朝6時からということになっていた。
ごそごそと起き出した我々(私と寺本君)は、まず風呂へ行った。まだ6時前のこと
である。水着の用意もしている。風呂への途中にあるプールは、やはり「準備中」の
札がかかっていた。風呂で体を温める。洗体はプールを済ませてからなので、ひたす
ら湯につかる。温泉というのは芯から体を温めてくれる。
6時になった。水着を着用してプールへ行く。昨夜は、ゴーグルなしで300Mでダ
ウンしてしまったが、今朝は500Mは泳ごう。あいかわらずゴーグルなしだ。平泳
ぎと横泳ぎを併用する。頭を水上に出しての平泳ぎに疲れたら横泳ぎで水に寝るよう
に泳ぐ。寺本君は、右のほうで、バシャバシャやっている。こちらは、他人の事など
構ってはいられない。どうにか目標の500Mだけは完泳した。再び、風呂。
朝食を済ませ、ホテルの従業員さん達が手を振る中、バスは出発した。
飯田インターチェンジから中央高速に乗る。駒ケ根インターで降り菅の台で高原バス
に乗換える。馬力のあるバスで、急勾配の坂道を曲りくねりながら登って行く。中国
電力の発電所がある。太いパイプに水を引き込み急勾配で落下させタービンを回し発
電しているようだ。こんな高い山の上に、よくこんな施設を作ったものだ。
やがて、「しらび平」に到着した。日本で1番高いところに設けられたロープウェイ
の発着所だ。中央アルプス駒ケ岳ロープウェイは、定員が60名で秒速7Mで運航し
ている。約7分で標高3000Mまで運び上げてくれる。天気は快晴で寒いと思って
いたが、それぼどでもなかった。山頂には雪がうっすらと積っていた。
抜けるような青空を見上げながら、movaで「T.Kさん」を呼び出した。この前
白馬岳からのコールで私を羨ましがらせてくれたお返しのつもりだった。もったいな
いような景観だ。どこを切り取っても立派な絵になる。
千畳敷散策となっていたが、あまり歩く時間はなかった。今度、訪れたら、ゆっくり
歩いてみたいものだ。山頂の駅で「山菜そば」を食べた。
やはり、ここもバスの団体旅行客が多い。街中の服装で、こんな高所まで簡単に登る
ことができるのは何か間違っているような気もする。
再び、高原バスで菅の台に戻る。所定のバスの座席に腰を落ち着けると、懐かしの我
家に帰ってきたような気になる。たった1日と半日座っていただけだが、バスの旅と
はそうしたものなのだろう。
バスは昼食会場となっている駒ケ根のドライブインへ到着した。
ここで、今回の旅のおみやげ物を買う最後のチャンスだ。例によってご婦人方は食前
食後に、ごったがえす店内をくまなく見て回り、次々と買物をされている。
りんごの地方発送というのも人気があったようだ。宅配便でケースごと送ってくれる。
私は、はずかしながらまだ一度も木に実っている「りんご」というものを見たことが
なかった。それが今度の旅で随処に見れた。駒ケ根インターチェンジの植栽は、りん
ごの木で、驚いたことに(驚くこともないが)赤いりんごが一杯実をつけていた。
りんご畑は道路の両側に延々と続いていた。これからがシーズン本番だろう。
バスは帰路についた。本は、「井上 靖」のものに変わっていた。
(了)インスピ